蒼夏の螺旋 “大好きな人へvv”
 



連休中にIP電話の動画通信があった時は二重にドキドキした。
自分のうっかりでちょっと火傷しちゃったの、
何でもう知っているのかなって思ったのとそれから、
ゾロにも内緒でこそり、
小野寺さんの奥さんに新しいケーキ教わってたの、
どうしてバレたんだろって思ったから。
『誕生日に着くように、プレゼントを送ったから。』
先触れなんて無粋だったけど、
確か当日って、そっちは祭日だったから、
もしやして出掛けるかもしれないと思ってな、って。
青い眸をやんわり細めて微笑ったお顔はやっぱり若々しい、
アメリカで人気の俳優さんにも どっか似ている いい男で。
だってのに、
お膝に抱っこしたベルちゃんが、
途中からこっちへ向けて“じょろ、じょろ”って言い出したのへ、
チラッて口許よじったのがなんか笑えた。
『何であんなのが良いんだろね』
今日びの可愛い子ちゃんたちの好み、おじさんには判りません、なんて、
ちょっとおどけて苦笑してた。
うん。じょろっていうのはゾロのことなんだって。
たんぽぽみたいな明るい金の髪。
黒っぽいベストスーツやストライプのシャツがよく似合う、
都会的でしゅっとした痩躯に、面差しも含めてどこか線の細い風貌をしていて。
精悍で男臭い、ウチのゾロとは正反対なタイプだと、
そこは自覚もあるもんだから、そんな言いようをしたんだろう。
でも俺、サンジのそういうとこも大好きなんだけどな。
細い指はとっても器用で、
お料理だけじゃなくって、キーボード叩いたりカードを指先でもてあそんだり、
襟が曲がってんぞなんて直してくれたりするのも、優しくて綺麗で凄げぇ上手で。
おっ?て眸を見開いてから、おやおやって笑み崩れる、
その一連のお顔の変化が、やっぱり凄げぇ綺麗で優しいし。
俺、小さいころにもう母ちゃん亡くしてたからさ、
サンジとずっと離れずにいた頃って、
なんか、母ちゃんといるような気がする時もあって、
それが何だかムズムズして嬉しかった。
叱りながらも邪険にはしないで、
でも怖々じゃないんだ、
いけないことへはスパッて怒るし、あんまり聞かないと手だって出した。
…痛くはなかったけどな。

 「…痛っ。」
 「ルフィ?」

ついつい声出しちゃったんで、
リビングにいたゾロがソファーの背もたれ越し、大きく背中と首とを延ばして、
キッチンのほうへ顔を向けて来る。
「どした?」
「ん〜ん、何でもない。」
今日は此処までにしとこうかなと、
ぱたぱたって畳んだのは大きな黒っぽい布で。
ミシンを使えば早いんだろけど、
何かどうも、あの“だだだだっ”て針が襲って来る勢いが怖いんで、
まだ大物は縫ったことがないんだよね。
片付けてから、ついでに…スポーツドリンクと缶ビールと、
柿の種とをトレイに乗っけて、リビングへ向かえば、
「あ、俺、さきいかがよかったな。」
「先に言えっての。」
言いようと裏腹、はいはいとキッチンへ戻りかかったの捕まって、
「お前は座ってな。」
何も引き返せなんて言ってませんと、にっかと笑ってソファーに引き込まれる。
連休終わった直後から、
晩ご飯の後、小一時間ほどキッチンに籠もってる俺だっての、
ゾロも薄々気がついていて。でも、余計な詮索の声はかけない。
バレバレだからなのかもな、俺って隠し事下手くそだし。
だって昨日なんか、
『裾上げ用にって、アイロンで熱着するテープってのがあるらしいよな』
そんなことを“さりげなく”言ってくれたりもしたもの。
うん、それは俺も知ってるけど、
ものがエプロンだからな、
しっかり縫うってカッコで手を入れといたほうが間違いないってもんだしさ。
それにしてもサンジって脚が長いから、
写真からこんなもんじゃないのかなって割り出した丈が長いこと長いこと。
真っ直ぐばっかりだとはいえ、
裾から脇から腰紐から、延々と縫い続けるのは初心者にはなかなか大変だ。
長くて大っきいギャルソンタイプのじゃなくて、
ウェストポーチみたいなカフェエプロンってのにすりゃよかったかな。

  ――― だって“母の日”って世界共通の記念日だから。

それを教えてくれたゾロだから、見て見ぬ振りを続けてくれてる。
新しく覚えたばかりのケーキとそれから、
よいしょよいしょと亀の歩みで縫ってるエプロンと、
誰のために手掛けているのか。
ああでも、送り先の当人が、誰が“母”だ、とか言って怒るかな。
ケーキだってさ、
サンジが作った方が上手で美味しいに決まっているのにね。
そうと思うとついつい手も止まり、むむぅって頬が膨らんだりもするのだけれど。


 「ルフィがわざわざ手をかけてくれたってだけで、
  俺だったら感動しちゃって大変なことになるけどな。」

 「ぞろ〜〜〜。/////////


企画部の人なくせに口がうまい宣伝部長なゾロだってのは、
問題大有りなんじゃなかろうかと思いつつ。
良い匂いのする温ったかい懐ろに、ぽそんって、
背中も肩も手足も、どっこもはみ出さないよう、くるみ込むよに掻い込まれて。
ちょっと堅いけど…だから頼もしい胸板へ頬っぺくっつけたまま、
重みのある大きな手のひらでよしよしって、
猫っ毛を指で梳くようにして撫でてもらって、エネルギー充填っ。
それに励まされて、やっぱ頑張ろうって握り拳をぐうにする奥方だったりし。
当日になっても間に合う“特別航空便”を知ってるから大丈夫。
さあ、あと3日だ、頑張るぞっ!



 THANK YOU,AND,I LOVE MY MOTHERvv





  〜Fine〜  07.5.16.

  *カウンター245,000hit リクエスト
     tiara 様 『蒼夏の螺旋で』


  *肝心な母の日に間に合わなかった、中途半端なネタですいません。
   全編通して“サンジさんのこと好き好き”なルフィですけれど、
   それを見守るだけの忍耐力がついた旦那だってのもこっそり主張。
(笑)
   お母さんに敵わないのは、何も奥様だけじゃないんですよね。
   娘だってお母さんは大事だし大好きだし。
   旦那様はそこんとこ、ちゃんと理解してやらんといかんと、
   そう思うことで切り替えた婿殿らしいです。
(おいおい・笑)

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